聖なるコスメ、聖なる日常

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手づくりのハミガキ粉

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オカトラノオ、2017年6月玉川上水沿いにて。)

 

 

   口内は、粘膜でできている。粘膜は、皮膚よりも浸透性が高い。皮膚が数秒ならば、口のなかの粘膜は入った瞬間に身体に溶け込む。からだの七割が水でできているという身体のなかでも、口内はほぼ水でできているといっていいのではないか。水に水彩絵の具を落とすと、あっという間に広がっていく。「口に入れたものは出ていくから」と安易に片付けず、身体の水槽に、どんなものが溶けていくのか、よく考えたい。

   オーラルケアには良質なものを。歯磨きした後で、味覚がおかしくなるハミガキ粉は避けた方が無難だ。

 

   七年ほど前までは、ハミガキ粉は、国内の石けんメーカーや、国内に比べて法的規制のゆるい海外のコスメメーカーのものなど一通り試した。

   が、オーガニックのハミガキ粉は入手しづらいこと、やれ「グリセリンは使わないでほしい」とか「シナモンがおいしい」などという家人の言い分、いただきもののココナッツオイル。などのことがあり、費用対効果が良く、高い品質が望める手づくりのハミガキ粉に落ち着いた。

 

   ということで今日は、ハミガキ粉を作った。

   重曹を350gぐらい使い、二ヶ月はもつぐらい、余裕を持ってつくる。マスタードの空き瓶、4つを満たし、1つは洗面所へ、3つは冷蔵庫へ。

 レシピは、①重曹、②重曹のマスキング(臭み消し)のための『ハッカ油』、➂オーガニックのココナッツオイル、④クローブパウダー、➄シナモンパウダー、⑥塩(今回は『石垣の塩』)である。

 クローブは、パウダー状のものより、固形のクローブをすり鉢で粉々にした方が、風味が長続きし、美味しい。が、手に入らなかったので、今回はパウダー状で。

 

 これらをただ混ぜ合わせるだけなのだが、ハミガキ粉づくりにはなぜかエネルギーが要る。仕事ですっかり疲弊していたり、遊んで帰宅した後に浮かれ気分で向かうことはできない。くちゃくちゃお喋りしながら、なんていうのもムリ。体調が悪い時はもちろん不可。ハミガキ粉づくりに向かうには、下腹部で呼吸しながら集中して、匂いや鮮度を確かめながら材料を揃え、道具を煮沸消毒し、混ぜ合わせる。

 以前は、前田京子さんの名著『お風呂の楽しみ』(飛鳥新社)のレシピの通りにつくっていたが、思考と試作を繰り返し、今の形に落ち着いた。

 ハミガキ粉は、一日の始まりと終わりに口にするもの、洗い流しながらも身体に吸収するもの、気分を変えるもの。食べ物とはまた違った層の役割を担っているからか、とにかく真摯に向き合わないと凛と通ったものができ上がらない。

 

 ハミガキ粉を入れたマイユのマスタードの瓶の上に、中華街の『照宝』で入手したカラシスプーンを添えている。が、家人がカラシスプーンを使っている形跡はない。「カラシスプーン一杯で、十分に歯を磨けるからね」と口を酸っぱくしてるのに。たくさんハミガキ粉を使わせたいCMにしっかり洗脳されているようで、歯ブラシにたっぷりハミガキ粉をつける癖がまだ抜けないのだ。さらに、「いちいちちっちゃいスプーンを使いたくない」と手間も惜しむ。私が使うから、歯ブラシをじかにつけないでほしいのだが、あまりにうるさいと、市販のチューブタイプのハミガキ粉にしてくれと言われてしまう。からだにやさしいもの、より地球と共生できる可能性を男性と探るのは、時折、思わぬところで困難が生じる。

 

 手づくりハミガキ粉の難点は、使い勝手ばかりではない。

 ホワイトニング、という歯を守っているエナメル質を破壊して真っ白にした状態を良いとする風潮が大きな障壁となる。ともすれば歯本来の象牙色が汚らく見られてしまう。タバコを止める前の家人は、歯がヤニで黄色っぽくなりがちで、相手に不潔な印象を与えかねなかった。

   そこで時折、ホワイトニングと称して、市販のハミガキ粉で歯を磨いた。市販のハミガキ粉は、研磨剤としては優れている。家人曰く「ちょっとした虫歯ならこれで削り取る」。確かに、お掃除の時の、ちょっとした頑固な汚れには良い。旅行や外泊の時に買った市販のハミガキ粉は、我が家に持ち帰ると、掃除用の研磨剤と化す。

  しかし、これを水に流すのはやはりためらわれる。フッ素成分の賛否もいまだすっきりしないし、自分の口内に入れたくない成分が、人間よりも小さな固体の生物にとって良い訳はないのだから。